研究開発
バイオナノカプセル技術
1.バイオナノカプセルの構造
バイオナノカプセル(BNC)はB型肝炎ウイルスの外殻を酵母で製造したもので、下図のような構造をしたナノサイズの粒子です。即ち、脂質二重膜にB型肝炎ウイルスの表面抗原が110個浮かんだ中空の粒子です。表面抗原には脂質二重膜を貫通するSタンパク質、Sタンパク質のN末にPre-S2領域が延長したMタンパク質、これに更にPre-S1領域が延長したL-タンパ ク質の3種がありますが、バイオナノカプセルを構成するタンパク質は総てLタンパク質です。なお、Pre-S1領域はヒト肝細胞を認識する部位、Pre-S2はウイルスがヒト肝細胞へ侵入する際に重要な部位、S領域はウイルス脂質膜の貫通部位です。このBNCの構造は感染性を持つB型肝炎ウイルスと比べると、粒子内にDNAなどを含まない点を除けば、ほぼ同じ構造です。
2. バイオナノカプセルの種類
BNCは、構成するタンパク質を変化させた各種のBNCがありますが、現在、提供可能な主なものは下記のものです。
BNC-L
B型肝炎ウイルスの有するL蛋白質を提示したオリジナルで天然型のBNCです。ヒト肝細胞に対して特異的な結合能を有しています。
BNC-ST
Lタンパク質のS領域のアミノ酸配列を改変することにより、抗原性を低減させた粒子です。BNC-Lと同様にヒト肝細胞を認識します。
BNC-ZZ
Lタンパク質の一部にprotein A由来の抗体結合ドメインを挿入した粒子です。抗体を容易に結合させることが出来、肝細胞以外のターゲティング用、又は抗体センサーとして利用できます。
BNC-ZB
Lタンパク質の一部にprotein Aとprotein G由来の抗体結合ドメインを挿入した抗体センサー用の粒子です。抗体結合ドメインの挿入数の違いにより幾つかバリエーションがあります。
BNC-Bio
ビオチン化したBNC粒子です。ビオチンーアビジン結合により糖鎖、レクチン等の細胞認識分子の結合が可能で、結合させた分子の細胞認識能をBNCに付与することが可能です。
HBsAg用BNC
BNCは遺伝子組換HBsAg (B型肝炎ウイルス表面抗原)と相同品です。HBsAg用にBNC-XT (高S抗原活性型)や、M型、S型のHBsAgも製造しています。
開発パイプライン
1.BNC-リポソームを用いた能動的DDS技術
BNCはB型肝炎ウイルスが持つヒト肝細胞に対する特異的な結合能と内包物の細胞内導入能を持っています。この性質を利用して、薬物を封入したリポソームにBNCを融合させることでヒトの肝細胞特異的に送達する技術を開発しました。この技術の応用として、①抗ガン剤であるドキソルビシンを封入したBNC-D(BCL-101)、②in vivo siRNA送達システムを開発しました。これらは何れも非臨床段階で開発中です。
2.タンパク質内包バイオナノカプセル技術
BNCへ任意のタンパク質を内包させる技術を開発しました。BNCの機能を利用し、細胞内へ任意のタンパク質 を非浸襲的に導入することが可能です。本技術は、細胞内で機能するタンパク質の機能解析は勿論、in vivoへの応用も原理的に可能なため、細胞内で作用するタンパク質医薬への応用にも繋がるものと考えています。
3.高感度抗体センサー技術
抗体結合型BNCの1つの粒子は約100分子の抗体のFC領域への結合能を2個有するタンパク質で出来ています。各タンパク質を1分子のHRP酵素で標識すると、1つの粒子は200個の抗体結合部位と100個のHRP標識を持つこととなり、抗体と比べると遥かに高い感度で抗体を検出できることになります。当社ではこの抗体結合型BNCを標識したものを利用した検出技術をMulti Antibody Detection (MAD)技術、標識粒子をMAD試薬と名付けました。この試薬をウェスタンブロッティング時の2次抗体の代わりに利用すると1次抗体の種類を気にすることなく、高感度の検出か可能で す(Easy-WESTERNとして商品化)。同じ原理により、ELISAでも高感度の検出系が出来ます(Easy ELISA Constructorとして商品化)。同様に免疫組織化学、その他の検出系にも利用可能です。
4.ワクチン
BNCは約100個のタンパク質で形成された粒子です。各タンパク質は膜貫通領域を介してきれいに整列した構造を取ります。粒子表面に抗原を提示した構造は免疫原性が高くワクチンとして理想的な構造であると一般的に言われていますが、BNCはこの理想的な構造を持っています。当社では各種のタンパク質を粒子外部に提示できるというBNCの特徴を活かし、B型肝炎ワクチンを始め、各種ワクチンの開発を行っています。
5.その他
その他、イムノアッセイ用の汎用試薬、B型肝炎ウイルス関連試薬などの試薬用製品も開発しています。